【山形大学教授】チャレンジし続ける姿勢とホスピタリティで社会課題の解決をアントレプレナーシップ教育で起業家を育成し「元気のある日本」を取り戻したい

山形大学教授でアントレプレナーシップ開発センター長を務められている、小野寺忠司先生にお話を伺いました。

実は大学に来る前は、民間企業にお勤めだった小野寺忠司先生。日本の産業構造に危機感を覚えたことがきっかけで、少しでも日本に貢献したいという気持ちで大学へ転身されました。

ご専門の「アントレプレナーシップ教育」とは? 「起業」に対する海外と日本の違いは? 今回のインタビューでは、起業家を育てるための取り組みや、先生が目指す日本の未来についてお話いただきました。

山形大学
アントレプレナーシップ開発センター
教授 小野寺 忠司先生

山形大学教授。1982年日本電気株式会社入社。NECパソコン開発リーダーに従事。数々のヒット商品を生み出した。2012年にはNEC執行役員、Lenovo役員に就任した。2017年4月Lenovo退職。
2022年4月に山形大学 アントレプレナーシップ教育研究センターを設立し、センター長に就任。起業家育成プログラム「i-HOPE」を手掛ける。経営人材教育を行い、数十社のベンチャーを発足させた。

参照:やまがたデジタルフェア~YDF2021~|山形新聞

「日本の危機的な状態を変えたい」民間から大学へ

山形大学  小野寺 忠司先生
参照:山形大学

私は、もともと研究者だったわけではなく、民間から大学へ来ました。
社会人としてNECからレノボ、外資系を経験して、レノボ時代に、このままだと日本は「世界から相手にされない国」になってしまうのではないか、今の日本は「世界をリードできる企業や産業が生まれない、危機的な状態」なのではないか、と感じたのです。

ちょうどその頃に大学から、こちらに来ないかというお話がありました。大学から地方を、そして日本を「元気のある状態」に、「元気のある日本」にできればと思ったのが、大学に来た理由です。

元気のある日本への近道はアントレプレナーシップ教育

私の専門は、「アントレプレナーシップ教育」です。
アントレプレナーシップは、「起業家精神」を意味しますが、ここでいう起業は「スタートアップ」を指しています。ですから、アントレプレナーシップ教育の目的は、「自分自身の力で課題を解決する、スタートアップ起業家精神を持つ人材を育成する」ことになります。


私がこのアントレプレナーシップ教育を専門にしている理由は、”元気のある日本”にするには、次の世界をけん引できる企業やリーダーを育てることが、一番の近道だと思ったからです。 アントレプレナーシップ教育を日本に浸透させるには、マインドセット(自分事、自己実現など)が重要です。「この地域や日本を良くしたい」と思う気持ちが、地域課題を解決し、その先に持続可能な経済エコシステム(ビジネス)が生まれてくるからです。その気持ちをしっかり育んでもらうためにも、アントレプレナー教育は、小学生から始めるのが良いと考えています。

起業家には、利益の出ない期間を乗り越えるマインドセットが必要

日本にとっての急務は、「新しいビジネスアイデアを持ち、それを実現させる起業家」を育成することです。現在、起業のリスクやハードルは、以前に比べると下がっています。例えば、起業したいと考えた場合、以前は銀行からスタートアップ資金を融資してもらうのが一般的だったため、利子や失敗した際の返済リスクがありました。

しかし、現在はベンチャーキャピタルから出資をしてもらえることもあります。ただ、その出資を受けるためには、自分の会社のビジネスアイデアや商品の魅力、そして将来性を、投資家たちに伝える地道な活動をしなければなりません。
そして、起業できたとしても、実際にサービスが売れて黒字になるには時間がかかります。原材料費や開発費、人件費などがあるため、すぐにビジネスが軌道に乗るとは限らないからです。その資金と時間の推移を表したものを「Jカーブ」と言います。この利益の出ない期間を過ごすための忍耐力やマインドセットが必要なため、起業家育成において、マインドセットが6〜7割を占めるほど重要になるのです。


もちろん、創業者1人が強い意志を持っているだけでは足りません。「事業を必ず成功させるんだ」という意思のもと、その目標を共に目指せるチーム作りや、会社作りができるかどうかも重要です。

デジタルマーケットの参入に出遅れ海外企業に太刀打ちできない日本

山形大学 小野寺 忠司先生
参照:山形大学

起業家を支援する制度が整ってきたにもかかわらず、海外に比べ、日本は起業しようとする人自体が少ない国です。その理由の1つは、変化してきた新しいビジネス環境に、日本が対応できていないからです。
インターネットサービスによる顧客獲得と、日本が得意としているものづくりによる顧客獲得のスピードにも違いがありますよね。例えば、テレビは1,000万人のユーザーを獲得するために40年かかりましたが、同じ数のユーザー数をFacebookなどはわずか1~2年で獲得しました。日本は、このように短期間で爆発的に顧客を獲得し、そこからお金を生み出す「新しいデジタルマーケットやそれに対応したサービス」への参入に出遅れているのです。しかも、新しいプラットフォームを作ることも得意ではありません。


私は、その原因が「アントレプレナーシップの不足」だと考えています。
日本でもインターネットの普及は十分でDXも進んできていますから、海外の起業家と同じ土俵に立っています。それでも海外企業に太刀打ちできないのは、「デジタルマーケットに対する新しいビジネスの発想力の乏しさ」「起業家のマインドセットの不足」「新しい分野へ挑戦する起業家人口の少なさ」「今まで国が起業家育成教育に対して積極的な施策を打ち出してこなかったこと」などのさまざまな理由があるのです。

地域の生活を守るためにも起業家を増やしGNPを高めたい

参照:yori-i project

今後日本で起業家を増やしていくために、私が所属するアントレプレナーシップ教育研究センターでは、「i-HOPE」という起業家育成プログラムを準備しています。期間は約8ヶ月(隔週土曜全16回48コマ)で、講義、講演、ディスカッション、チームワーク学習などを通して、起業家精神、知識、技術、実践を総合的に学べます。

私が目指している未来像は、もう一度日本が世界をリードする経済大国になることです。
ただ、一方で、人口減少が加速し地域が消滅していきますから、今までは他人事で済まされたことが、自分の身の回りで起きてくるでしょう。人口減少は止められませんので、地域で生活している方々が幸せ(ウェルビーイング)を継続できるかが、とても重要です。そのためには、今まで以上にGNPを高めていく必要があると考えています。

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