現在の保育業界の課題そしてこれからの保育、未来の保育士のために実践できるキャリアアップ研修

今回は「保育士等キャリアアップ研修」を提供する指定研修機関『すずらんチャイルドケア』の人財育成部・太田宏彰さんに、現在の保育業界の課題や保育に従事している方のキャリアアップ法をお伺いいたしました。

NPO法人すずらんチャイルドケア事業サービス内容と取り組み 

—　まずは「すずらんチャイルドケア」の事業内容についてお伺いさせてください

NPO法人すずらんチャイルドケアは、2016年から小規模保育事業所としてスタートしました。小規模保育事業は0歳から2歳までのお子さんを預かる小規模保育園です。

今は小規模保育事業と私の所属する研修事業に分かれております。

人財育成部では『保育士等キャリアアップ研修』に注力しており、保育士や調理士、栄養士、看護師、事務職員を対象とした研修を主に扱っています。この研修は、「保育士のキャリアパスに必要な研修を主催する責任」を担っているため、現場に戻った後にミドルリーダーとしての役割を全うできるよう、現場目線の研修を行なっています。

保育士がミドルリーダーになるためには沢山の専門知識や技術が必要となるので、乳児保育、幼児教育、障がい児保育、食育・アレルギー対応、保健衛生・安全対策、保護者支援・子育て支援、マネジメントという７分野に分かれています。

現在は会場で研修を行う事もありますが、オンデマンド研修やZoom研修が主な研修形式となっています。

できない事と向き合うより自分のできることを前向きにこなしてきたから今がある。

—太田さん自身の経歴についてお伺いできますか？

私自身は今の法人に入って3年目になります。それまでは新卒から15年間、建築系の資格取得のための予備校に勤めておりました。最初の5年は営業職、その後は採用職を5年、社内の研修担当を5年ほど担当していましたね。

「教育」という分野は同じですが、お客様が建設業界の方だったので、保育とは無関係な所で働いていました。

—「保育」という分野に興味をもったきっかけは？

正直なところ、元々保育に興味があったというわけではないんですよね…。

色々な事情からキャリアチェンジを考えていたタイミングで、「すずらんチャイルドケア」の理事長である姉に相談したところ、一緒に仕事をしないかと誘ってもらったんです。

分野は違えども、『すずらんチャイルドケア』であればこれまでのキャリアを活かせるのではないかと思い、転職を決めました。

—前職の経験は今の業務にも活かされていますか？

活きていると思いますね。前職で研修部門で働いていたときには、新卒入社の方、中途入社の方、また主任や課長、支店長といった役職持ちの方など、階層に合わせた研修を行っていました。

その中で、会場や講師の準備、プログラム内容や目的の設定などを組み立てながら研修を進めていました。この経験が、現在の研修プログラム作成にも大いに役立っています。

—仕事のために勉強していることはありますか？

現在は保育士資格を受験中です。というのも、保育の現場のことを知らずに研修を設計しているままでは、お客様が本当に学びたいことを提供できないと考えているから。

お客様の気持ちや悩みの中に、「研修の価値」が隠れている。だからこそ、実際に現場に出ることで、求められる知識を自らの手で掴み取りたいと考えています。

太田さんが影響を受けた本

–人生を変えるきっかけとなった本があれば教えてください

そうか、君は課長になったのか。

強いてあげるとするなら、佐々木常夫さんの著書『そうか、君は課長になったのか。』です。課長職に就いた人々向けの実践的なビジネス書なのですが、私自身も課長職になったときに参考にさせていただきました。

保育士研修での仕組み化を使ったキャリアアップを実現

—現在の保育業界の課題について教えていただけますか？

通常だと一般社員から就任、係長、課長と就業年数とともに上がっていきますが、保育業界にはこのミドルリーダーの階層が長い間ありませんでした。園独自に階層がキャリアパスが設けられている例もあるのですが、多くは園長と主任、それ以外はみんな同じ立場という状況で、ミドルリーダーがいなかったんです。

そのため結婚や出産で退職し、子育てが落ち着いた頃にもう一度保育士として復帰するとなると、また一からのスタートになってしまう。

だからこそ、若い保育士たちも将来に希望を持てず、結果的に業界全体が人手不足に繋がる悪循環が生まれていました。

2017年の4月からは保育士のキャリアアップ研修制度が設立されて、ようやく園長や主任などの経営者層と現場をつなぐミドルリーダーができたんです。

ーそれは保育士さんたちにとって大きなモチベーションになりそうですね！

そうですね。 ミドルリーダーとして職務分野別リーダーや副主任保育士などの役職が設けられたことにより、一般企業と同様にキャリアパスの明確な見通しが立てやすくなりました。また、役職につけば「処遇改善手当」といういわゆる役職手当も支給されるようになったので、キャリアアップを実感しやすくなったと思います。また一度キャリアアップ研修を修了すると、その修了証はどこで働いても自分のキャリアを示す指標になります。なので、子育てで一度現場を離れ、子育てが落ち着いて再復帰した後に過去のキャリアがしっかり保証されるようになったんです。

保育士の働き方改革！

ー保育業界の課題は他にもありますか？

2年前に不適切な保育（子どもに手を挙げる、適切でない言葉をかけるなど）が問題になったこともあり、これまで保育業界を改善する色々な施策が実施されてきました。しかし、保育園は幼稚園とは異なり、朝7時ごろから夜7ごろまでと長時間こどもを預かるため、職員間での情報共有やスキルアップ研修の時間がなかなか取りにくい状況でした。

平成30年に保育所保育指針が改正され、保育士をはじめとする職員のキャリアパスと研修等により自己研鑽を図ることが明文化されるようにはなったものの、業務量が多いという根本的な問題は解決していません。

さらに、社会の変化や保護者の価値観の変化にも対応する必要があり、保育園側にも急速な変革が求められています。このような背景から、保育士の業務負担はますます大きくなっているんですよね。

現場の負担を減らすためにも、業務をどのように整理していくかが今後の課題かなと思っています。

ー業務を整理していくためにも、やはり知識は重要ですね

そうですね。知識はアイディアを生み出し、視野を広げ、選択肢を増やす重要な要素です。そのため、知識が不足していると、間違った判断や行動をしてしまうことになります。また「これはこういう風にするもの」という文化できてしまい、特に女性が多い職場では、チームで情報交換をしながら仕事を進めることが一般的です。そのため、新しい選択肢を全員が知らないと、それが「当たり前」になってしまい、今の当たり前と園のあたり前の乖離に誰もメスを入れなくなる可能性があります。

キャリアアップ研修に参加された方々の中には、研修を通じて新たな学びや気づきを得る方もいらっしゃいます。しかし、現場に戻った後に、その知識や気づきをどのようにチームで共有すればいいか分からないという声もよく聞きます。そこも大きな課題のひとつですね。

ー今後の展望を教えてください

現在は主に今後ミドルリーダーになることを期待されている現場の保育士を対象に研修を行っていますが、園がより良くなるためには、経営層の方々にも参加していただける研修が必要であると感じています。そのため、今後は現場の保育士だけでなく、経営層向けの研修を実施していきたいです。また、障がいのあるお子様を持つ保護者向けの研修も検討しています。

また、先ほども申し上げましたが、研修で学んだ内容を周囲にどのように伝えるかも重要な課題です。そこで、研修の内容を動画としてYouTubeにアップしたり、LINEでシェアできるようにするなど、より多くの人が手軽に学べるような取り組みを進めていきたいと思っています。

未来の保育士さんたちに向けて

ー保育士を目指す方に向けて何かアドバイスがあればお願いします

まず大切なのは、好きなことに一生懸命取り組むことです。その中で培った自走力や学びは、最終的に保育業界に入った際に必ず役立ちます。

また、チームでの経験も重要です。保育の現場はチームワークが欠かせない仕事なので、意見が異なる人々との関わり方や、ストレスへの対処法を学んでおくといいと思います。

保育士になったあとにキャリアアップを目指すのであれば、キャリアアップ研修を受けるのが最も効果的だと思います。