慶應義塾大学商学部で教授を務められている、中島隆信先生にお話を伺いました。
イェール大学の研究員や内閣府で役人としての経験も有する中島隆信先生は、現在「応用経済学」を専門に研究されています。
なぜ、応用経済学を研究しようと思われたのですか?若手が金融業界で成功するためには?研究に対する思いや金融業界を目指す若手に向けて、中島先生の独自の視点からお話いただきました。
慶應義塾大学
商学部教授
中島隆信先生
慶應義塾大学経済学部を卒業後、大学院に進学し博士課程まで在籍。
その後、慶應義塾大学商学部で助手として採用され、助教授を経て現在は教授を務めている。
イェール大学の研究員や閣府で役人の経験も有している。
著書『大相撲の経済学』(東洋経済新報社・2003年9月)『障害者の経済学』(東洋経済新報社・2018年4月)など。
データ分析への関心から研究者の道へ
学部のゼミに所属していたときに、コンピュータを用いたデータ分析に興味を持ちました。今後もデータ分析を続けていきたいと思ったのが、研究者を目指したきっかけです。大学に採用されてからはさまざまな社会現象に関心を持つようになり、応用経済学を専攻するようになりました。
経済学に対する偏見を払拭したい
私が研究しているのは、応用経済学です。一見経済学とは無関係と思われるような、大相撲、仏教寺院、障害者福祉、刑務所、高校野球などに経済学の考え方を当てはめて、新しい見方を提示しています。最近では、「笑い」についても研究しました。
応用経済学の研究に取り組もうと思ったのは、経済学に対する偏見を払拭したいと思ったからです。日本では、経済学は損得だけに注目する冷徹な学問で、難しい数学を駆使する机上の空論と思われているふしがあります。そこで、身近な問題に経済学を当てはめることで、そうした偏見を払拭したいとの思いで、応用経済学の研究に取り組んでいます。
印象深い2冊の著書
これまで携わってきた仕事の中で最も印象に残っているのは、『大相撲の経済学』を出版したことです。この本を出版してから相撲界は薬物や賭博、八百長などさまざまな不祥事に見舞われ、日本相撲協会の組織改革を目指して「ガバナンスの整備に関する独立委員会」が立ち上げられました。私は同委員会の副座長を務めたこともあり、非常に印象に残っています。
また、これまでのキャリアの中で最も誇りに思っているのは、『障害者の経済学』という書籍を執筆したことです。社会的弱者として保護の対象とみなされてきた障害者に対する世間の見方を変えたいとの思いで、この本を執筆しました。多くの反響をいただいて、「日経・経済図書文化賞」を受賞することもでき、大変うれしく思います。
仕事では現場へ出向くことと代替案の提示を重視
仕事をする上で大切にしているのは、現場に足を運んで自分の考えを机上の空論で終わらせないようにすることです。また、現状を単に批判して終わるのではなく、分析を行った上で代案を示すことも重要だと考えています。そのため、私の著作は身近なテーマを扱いながらも、深い内容になっていると自負しています。
金融業界におけるキャリア形成のポイント
10〜30代の若手がこれから金融業界で働いていくためには、数学や統計学のスキルは必須になると思います。また、金融は世界とリアルタイムでつながっているため、海外の動向に常に注意を払う必要があります。そのため、海外の大学院でMBAの資格などを取得し、幅広い人脈を築いておいたほうがいいでしょう。
また、金融業界で働くにしても、キャリア形成においてはさまざまな業界にアンテナを張っておくことが望ましいです。実用性を高める技術は利益をもたらす反面、すぐに真似されてしまいます。実用性の上に文化性やファッション性などの独自性をうまく積み上げられる分野こそ、価値の創造や獲得ができます。
多様な価値観が幸福感を生む
私が目指す未来の理想像としては、物量だけの成長には限界があることを、人々は認識すべきだと考えています。人間の幸福感は、多様な価値観から形成されています。単調な欲求がどれだけ満たされたとしても、幸福感は得られません。さまざまな経験を通じ、多様な価値観を持つことで幸福感を高める新たな軸が形成されるのです。だからこそ、物量だけの成長には限界があることを、認識していく必要があると考えています。