「働き方がガラッと変わるなんて、本当か?」
「さすがに大げさじゃないか?」
「ChatGPTはまだまだレベルが低くて使えないだろう」
と疑問に思う方も多いかもしれません。
たしかに、私たちの仕事は今のところまだほとんど変わっていないでしょう。
ChatGPTを使う業務があっても、それがなくなったところで大して困らないようなレベルかもしれません。
しかし、エンジニアやマーケター、ライター、編集者のような一部の職種では、既にChatGPTを含めたAIの活用はほぼ完全に日常化していて「これが無くては仕事が進まない、ストレスである」という状況があるのも事実です。さらに、その傾向は次第に強まっています。
私自身、コードを書く時や文章を執筆するときにChatGPTを使わないときは一切ありません。必ず使うようにしています。
なぜなら、ChatGPTは仕事を早く終わらせるのと仕事の質を上げるのに非常に役立つからです。
そこで、この記事では、AIやChatGPTが私たちの働き方に与える影響について細かく見ていこうと思います。
将来的に私たちの働き方がどうなるのか、キャリアやスキルについてどう考えれば良いのか、についてヒントになるかと思います。
株式会社AIイノベーションズ
代表取締役社長
人工知能学会 会員
阿部 隼也さん
複数のITベンチャー企業での勤務を経て、当社を創業し、企業向けのデジタルマーケティング事業を展開。
2022年より生成AIに注目し「生成AIに強いシステム開発会社」として生成AIのシステム開発・コンサルティング・研修事業を運営。
なぜAIとChatGPTは働き方を変えるのか?
そもそもAI(人工知能)とは何なのでしょうか。まずAIをざっくりと理解する必要がありましう。
AIとは、いわば「考える能力がある」コンピュータのことです。
大昔のAIは、考えるといえるレベルではなく知識を吐き出すだけのようなものでしたが、数十年という時間をかけてAI技術は大きく進化しました。今のAIと昔のAIは全く違います。
AIは、思考ができる
現在のAI(生成AI)は、まるで裏側に人間がいて思考しているかのような出力をしてきます。
つまり、私たちの仕事における「思考」の部分を代行してくれるということです。
普段、
- どんな資料をつくるべきか?
- どんな提案が刺さるか?
- どうすればきれいにデータ整理できるか?
などと考えることが不要になるといえるでしょう。
もう1年後には、このようなことはAIに聞けば我々が1時間考えても出てこないような素晴らしいアイデアを、AIが5秒で教えてくれるようになるでしょう。
実際、今でもChatGPTの有料版のGPT-4という高性能なモデルを使うことで実用的なアイデアを出してくれます。
AIエージェントなら、作業もできる
さらに、「思考」だけではなく「作業」まで代行させようとする「AIエージェント」という概念も登場しました。
AIエージェントは、指示内容を元に作業をしてくれます。
たとえば、「このデータを良い感じに整理しといて!」とAIエージェントに伝えると、良いフォーマットを考えたうえでExcelファイルを作成して送ってくれます。
実際、同じようなことは既にChatGPTの有料版の機能で実現しています。
このAIエージェントの技術は急速に進化しており、私たちの現在の業務は大きく変わっていくことは明白です。おそらく数年以内にiPhoneやWindows、Macのようなデバイスで実現するでしょう。
このような技術があれば、私たちの働き方がガラッと変わることは容易に想像できるでしょう。
ただし、まだこれはPCでできる仕事の話にとどまっており、多くの仕事(いわゆるブルーワーカーの仕事など)はロボット開発が進まないと実現しないでしょう。ロボット開発は、多額の費用がかかるのも進化を遅らせる要因になっています。
また、今すぐ多くの企業が対応できるというわけではないため、実際の変革はじわじわとおこなわれることになります。大きな変革は、一瞬で起こるわけではなく、多くの人が気づかないうちにじわじわと進むものです。
とはいえ、遅かれ早かれ大きな変革は起きるということが重要です。
2030年の働き方
AIが急速に進化する中で未来予測をするのは非常に難しいですが、ここで数年後の2030年がどのような働き方になるのか考えてみましょう。
先ほど見たように「思考」と「作業」(PC作業)はAIが代行してくれるようになるでしょう。
もちろん今のAIの賢さでは少し足りませんが、ChatGPTを開発したOpenAIのCEOのインタビューによると、毎年のように大きく進化していくことを想定すべきです。
実際、この数年でとてつもなく進化し、今も継続して急速に進化しています。
増える仕事
まず、「何をやるのか決断する」仕事が増えるでしょう。
AIが出してきたアイデアを元にチームでディスカッションをおこない、何をやるのか決断する必要があります。
決断してしまえば、あとはAIが作業してくれるでしょう。この「決断する」仕事においては、早く決断すること、正しく決断することが重要となります。
次に、「AIのサポートをする」「AIに指示をする」仕事が増えるでしょう。
AIを搭載した製品を操作したり、指示出しをして管理する必要があるためです。ここをAIに任せてしまうと何をするのか分かりません。人間が責任者としてこれをおこなう必要があります。
また、コミュニケーションが増えるでしょう。チームでのディスカッションや意思決定の時間が増えるでしょう。
減る仕事
減る仕事については、
まず、PCでの事務作業は確実に減っていくでしょう。
チャットや音声入力でPCに指示をすればそれを実行してくれるようになります。
次に、調べる仕事が減るでしょう。
これまでは、Googleで検索して様々な記事や論文を読む必要がありましたら、これからはそれらを元に論理的に正しい形でAIが調査結果を数秒で渡してくれます。
ロボットが来る
最後に、ロボットについても言及する必要があるでしょう。
これまでの内容では触れてきませんでしたが、2030年になれば素晴らしいロボットが普及しているはずです。
今もロボットのようなものはありますが、知能は搭載されていないものがほとんどです。つまりAIが入っていない。そのため、これから来るロボットは「何でもやってくれるロボット」をイメージしてください。
ChatGPTに目や口、手や足が付くのです。
私たちの仕事はPCでの事務作業だけではありません。いわゆる肉体労働のようなことも今でも多くあると思います。たとえば、製造業や建設業はその代表です。
そして特に日本において大きな産業ですので、どんどんロボットの採用が進むでしょう。
PC作業のようなものは2~3年で大きく変わるでしょうし、そのあとは肉体労働を伴う作業が5年も経てばかなりロボットがやってくれるようになるでしょう。
そのようなロボットを導入するのも大変なので、日本中に普及するまではもう少し時間がかかるかもしれませんが、少なくとも技術的にはもうすぐ出来るようになります。
AIは私の働き方をどう変えたか
ここで、一例として私の仕事内容をどのように変えたかご紹介します。
私は自社のソフトウェアを開発して提供しています。その開発において、以下のように利用しています。
ただし、これは2024年4月時点でのもので、さらにどんどん変わっていくと思います。
- プロダクトマネジメント:どのような機能があればもっと良くなるかChatGPTに相談する
- システム構造設計:新機能を実装する方法をChatGPTに相談する
- プログラミング(コーディング):新機能のコードをCursorという開発者向けAI製品に書いてもらう
- カスタマーサポート:問い合わせのメール対応が大変でコストがかかるので、メールではない方法でどのようにユーザーをサポートできるかChatGPTに相談する
以上のようにソフトウェア開発ひとつで、様々な活用方法があります。ご紹介した例もほんの一部ですが、私は「相談相手」「ディスカッション相手」として活用することが多いです。
AIは広範な知識を備えているので、どんなジャンルでも様々な観点からアドバイスをもらえます。
また、実際にコードを書いて製品を開発している時には、まずAIにコードを書いてもらい、私が添削して、さらにそれをAIに添削してもらうというプロセスを踏んでおり、もはや私が開発しているのかAIが開発しているのか分からないような形になっています。
でも当社としてはとにかく結果(ユーザーが喜ぶという結果)が出れば良いわけなのでそのような過程は全く重要ではありません。
ChatGPT時代のキャリア形成方法
ここまでAIについてざっくりと見てきましたが、これだけでも私たちの働き方が大きく変わる可能性を感じていただけたのではないでしょうか。
「思考」も「作業」もAIが代行してくれるようになる時代が目の前に来ています。
ここからは、そのような社会において私たちはどのようにキャリアを形成すべきなのか考えてみます。
そもそも今回の生成AIブーム以前であっても社会の変化は激しくなっていて「VUCA」の時代だと言われてきました。そのような社会でのキャリア形成は非常に難しいものとされています。
そして、その傾向がAIによってさらに加速していると言えるでしょう。
これまでのキャリア形成とは「なりたい姿であるゴールから逆算して、そのために必要なスキルを身に着けたり、経験をする」ことが基本でした。
しかし、これからのキャリア形成は少し考え方を変えるべきでしょう。ゴールがあるのは良いのです。社長になるとか、出世してある程度の収入を得るとか、いろいろあると思います。
しかし、そこから逆算して「必要なスキルを身につける」というプロセスを踏むのが難しくなってきました。
なぜなら、必要なスキルはころころ変わっていくからです。
たとえば、ChatGPT以前にはExcelの関数は覚えておくと便利だったかもしれませんが、今はChatGPTが関数を書いてくれます。Excelスキルの価値は明らかに下がっていますし、その傾向は今後も続くでしょう。
なぜならExcelでやる作業は全てAIがやってくれるようになるからです。
大事なのは「コンピテンシー」
では、どう考えればいいのか。
個別のスキルを身に着けるという考え方ではなく、「コンピテンシー」を身に着けていくという考え方です。スキルではなくコンピテンシーを身につけましょう、ということです。
必要なスキルは時代によってころころ変わりますが、必要なコンピテンシーは時代が変わっても変わらず重要なものです。たとえば礼儀正しいことや誠実に仕事に取り組める性格は、いつの時代でも大事であるといった話です。
スキルは、特定の問題を解決するためだけの汎用性の低い道具であり、その多くは単なる知識がベースとなっています。
たとえば、Excel操作や、コーディングのようなものです。
一方でコンピテンシーは、あらゆる問題を解決するために役立つ汎用性の高い道具であり、その多くは行動の特性と言われています。行動のベースとなる価値観や思考・性格などの要素のことです。
どんな価値観を持って仕事をするのか、というイメージです。「仕事で大切にすべきマインド」と言い換えるとわかりやすいでしょう。主体性や行動力のようなものです。
たとえば、以下のような特性がコンピテンシーです。
- 言われたことだけやるのではなく、主体的にやるべきことを考えて行動できる
- 目の前の業務だけではなく、部署や会社の目標を意識しながら行動できる
- すぐ諦めることをせずに、粘り強く行動し続けられる
- 円滑なチームワークを推進できる
- 複数の選択肢の中から、最も良い選択肢を選び決断できる
のようなことがコンピテンシーの例です。
これらの考え方は仕事において非常に重要ですが、スキルとは言いません。これからの仕事において重要なのは個別具体的なスキルではありません。スキルはAIが代替します。
コンピテンシーのほうが圧倒的に重要なのです。
重要なコンピテンシーは何か考える
日々、働くうえで「この考え方や行動の仕方が大切だな」と感じたら、そのような行動ができるように心がけるべきということです。
また昨今言われている「社会人基礎力」というのも参考になるので、調べてみると良いでしょう。
参考:社会人基礎力とは?3つの能力の必要性や鍛え方をわかりやすく解説
そして、コンピテンシーを身に着けるためには日常的にその行動をとるようにし、習慣化してしまうことです。常に頭の片隅に置いておくのです。
また、企業によって重要なコンピテンシーは異なります。
たとえば銀行のセキュリティを担うような仕事であれば、1つのミスもしたくないような保守的なコンピテンシーを持つ人が優秀とされるでしょうし、創業直後のベンチャー企業の営業マンであれば、ミスやトラブルを気にせずにとにかく多くの契約を取ってくれば優秀とされるでしょう。
自分が身に着けるべきコンピテンシーを考えて、意識して習得することができれば、これからのAIが発達した時代においても自分の価値を貫くことができるでしょう。